東京インフラ040 メトロ銀座線

Implication of modern civilization


浅草・上野間2.2kmの区間に、この東洋初の地下鉄は建設された。今なら乗車わずか5分の距離。このわずかな区間を足がかりにして、世界有数を誇る地下ネットワークが築かれていった。

「地下鉄道は余りに散文的である。最も近代的な散文の一例。なぜならば、上野浅草間を、最も短い直線で、最も短い時間で交通する ━ その交通機関の目的以外には、いかなる無駄な詩もないからである。・・・このやうな地下鉄道にこそ、未来の文明の多くの暗示を見出す。」(川端康成)

一つの目的を達成するために、ひたすら合理的・効率的手段を追及する態度。その結果、迷路のような細い路地に溢れていた情緒が、どこかへ消え去ってしまう。多様な表情をもつリアルな空間とは異なり、駅の相関関係だけを示すトポロジーの空間へ迷い込んだかのような地下鉄の世界は、確かに近代文明の一面をよくあらわしている。ただ歴史が示すように、近代という時代は、この新たな空間に別の詩を見出し、表現していった。

一方、地下鉄をつくる過程は、リアルな空間との闘いの連続だった。道路を掘り下げ、鉄骨と鉄筋コンクリートで頑強な框をつくる。通風孔をあけ、万全の防水工を施す。とにかく日本で初めて、人が長時間、快適に移動・活動できる地下空間をつくりあげるわけである。

そして、「帝都唯一の避暑境」(川端康成)、つまり当時の地下鉄の特徴でもあった夏涼しく冬暖かい、という地下空間のメリットも生かして、銀座線では、三越前の駅に象徴される、デパートのアクセスと一体化した駅がつくられた。こうして乗客を増やし、採算性を確保する努力が重ねられた。こうして人間味あふれる空間がネットワークと一体となり、新たな消費空間の夢が紡がれていったわけである。(北河)

この物件へいく
引用
川端康成全集第26巻、新潮社、1982.

種別 地下鉄
所在地 東京都台東区・千代田区・中央区・港区・渋谷区
構造形式 鉄構框・鉄筋コンクリート
規模 延長14.3km
竣工年 1927-39年
管理者 東京メトロ
設計者 東京地下鐵道 東京高速鉄道
備考 土木学会選奨土木遺産(東京地下鐵道区間 浅草~新橋間)
上野浅草間建設概要上野万世橋間建設概要銀座線竣工特集選奨土木遺産技術解説
Back To Top