東京インフラ028 聖橋

カルチエラタンの高踏的風景


「江戸・東京は、地名や橋の名のつけ方に洒落っけがある。北に孔子を祀る湯島台があって、南の神田駿河台にはニコライ堂(ロシア正教)がある。そこをむすんでいるから聖橋だという。」(司馬遼太郎)

名前は公募によりつけられた。「ひじりばし」と読む。橋は、皇居から本郷にいたる震災復興道路が、神田川をわたる地点に架かる。

「1927年に作られたこの橋は御茶ノ水駅のホームからも間近に見え、僕がアニメーション製作会社に通っていたころは、その半円形のモダンなデザインをオシャレな橋だと思って眺めていました。今では夜間ライトアップされることもあって、隣に架かるお茶の水橋から眺めると、川面に映った光と合わさって美しい円を描いてみせてくれます。」(秋元治)

確かに川から眺めると、江戸時代に造形された堀のスケールを浮かび上がらせるように、当時としては大規模なスパン36mの鉄筋コンクリートのアーチがはめ込まれ、調和した空間が生み出されている。

また道路側から橋を眺めると、川に対して微妙に斜めに架けられており、古写真や地図から、その軸線がニコライ堂のドームに向かっていることがわかる。

「このマッシブな美は附近のニコライ堂と相俟って特異な高踏的風景を現出している」(今和次郎)

本場パリのカルチエラタンでは、ソルボンヌ礼拝堂のドームが街路とともに「高踏的風景」をつくりだしているが、われらの「カルチエラタン」も、もともとは似たようなものだったようだ。ただし、今は高層ビルに隠れてしまい、それを確認することは難しい。(北河)
 

この物件へいく

引用
今和次郎:新版大東京案内、中央公論社、1929.
司馬遼太郎:街道をゆく36本所深川散歩・神田界隈、朝日文芸文庫、1995.
秋元治:両さんと歩く下町、集英社新書、2004.

種別 道路橋
所在地 東京都千代田区
構造形式 鉄筋コンクリート造 アーチ橋
規模 橋長91m
竣工年 1927年
管理者 東京都
設計者 国(内務省)
設計図建設写真工事概要絵葉書コレクション技術解説
Back To Top