東京インフラ027 御茶ノ水駅

川を囲むモダニズム・デザイン


地下鉄丸ノ内線は、あわせて4度地上に現れる。茗荷谷と後楽園の豊島台の縁、四ツ谷の外濠、そしてお茶の水の崖地である。後者2箇所は、江戸時代に人工的に作られた地形で、お茶の水の場合は、まず人工地形に架かる聖橋の風景がパッと開け、神田川左岸側の崖におさまる戦後のモダニズム建築・御茶ノ水駅に滑り込む、というドラマチックな展開を味わうことができる。池袋・御茶ノ水間が開通した当時の冊子の挿絵は、駅舎を含む当時のデザインの潮流を今によく伝えている。

この丸ノ内線の駅に対面するのがJR御茶ノ水駅である。モダニズム建築という点では、こちらの方が先輩といえる。この駅は、都市のランドマークという旧来の駅の概念を捨て、鉄道・道路という<血管>の接続点としての機能性を追及した、ある意味画期的な駅舎であった。

「お茶の水の女学校なるものは、小石川へ引越してしまった。つつましやかな伏目がちの女学生はお茶の水駅から降りたり乗ったりしなくなった、その代わりに文化学院の生徒が、ピチピチと駅から飛び出してくる。新しいお茶の水駅のモダンな建築には、どうやらこのほうが、ふさわしいようだ。」(サトウハチロー)

もっぱら<血流促進>を目指したモダニズム建築の曇りのない明るさが、行き交う人々の姿を生き生きと映し出す。しかし、かつての外観は、今や神田川沿いの階段くらいしか残っていない。

この2つの駅舎は、聖橋の左右の脇を固めるように立地している。聖橋が内務省、両駅舎が鉄道省と帝都高速度交通営団と、建設主体は異なるが、不思議と全体的に同系統のモダニズム・デザインでまとめられ、江戸の都市美と調和する機能美の世界をつくりだしている。(北河)
 

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引用
サトウハチロー:僕の東京地図、ネット武蔵野、2005.

種別
所在地 東京都千代田区
構造形式 鉄筋コンクリート造3階建(JR) 鉄筋コンクリート造箱型地下1階(東京メトロ)
規模 面積1370㎡(JR) 1858㎡(東京メトロ)
竣工年 1932年改築(JR) 1954年(東京メトロ)
管理者 JR東日本 東京メトロ
設計者 国(鉄道省) 帝都高速度交通営団
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