東京インフラ030 万世橋高架橋

<血管>を中から覗き込む


橋は、建築物と違い、通常内部空間をもたない。歩いたり、車で通過したり、眺めたりするのは、たいてい構造物の外側である。もし内部があったとしても、そこにもぐりこむのは、管理やメンテナンスを行う技術者くらいである。

そう考えると、鉄道高架橋は、一般の人でも内部空間に潜入できる貴重な橋である。しかも、踏み入る内部空間に見所が多く、例えば有楽町の高架下には飲み屋街が、御徒町ではアメ横商店街の迷宮が広がっている。

万世橋高架橋も内部空間を大きな見所としている。西洋ではすでに珍しくないが、インフラの歴史性と対比するかのように、ファッショナブルなデザインでまとめられた、わが国では数少ない事例である。この比較で考えると、有楽町と御徒町は歴史性を対象化するというより、むしろ高架橋の歩んだ歴史と同化したディープな空間といえよう。

万世橋高架橋は、1912年から1919年までの間、中央線の終着駅であった万世橋駅と一体的につくられた煉瓦構造物である。外から見ると、扁平なカーブを描く20の欠円アーチが神田川に沿って連続し、内部に目を転じると、逆に尖頭形のアーチが端から端まで2列で貫かれている。

耐震性を確保するため、アーチ内部にコンクリートを打設して、煉瓦が隠れているのは残念だが、かつてのプラットホームに通じる階段や内部煉瓦壁面の微妙なカーブなどの見所を際立たせながら、丁寧に整備されている。インフラ解剖の視点からいうと、<血管>を中から覗き込むかような、ミクロの世界の妄想に誘ってくれるのが、なによりありがたい。(北河)

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種別 鉄道高架橋
所在地 東京都千代田区
構造形式 煉瓦造アーチ橋 鋼製桁橋
規模 橋長111m
竣工年 1912年/2013年改修
管理者 JR東日本
設計者 国(鉄道院)

東京万世橋間建設概要
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