東京インフラ064 東京湾アクアライン

歴史を呼び覚ます海上の巨大なモニュメント


羽田空港に向かう飛行機が、最後の着陸態勢に入ったとき、ふと目に入る長大な線状構造物。それが東京湾アクアラインである。

川崎と木更津を結ぶことで、房総半島の豊かな自然と京葉工業地帯を、東海道メガロポリスに近づける。延長は15.1kmで、延長4,384mのわが国最長の橋梁と、延長9,610mの長大なトンネルによって、海上・海中を一気に貫く。海底下のトンネルでは、軟弱地盤の土を凍らせて固めた上で、シールドマシンで掘り進み、海中の橋梁では、橋脚にチタンを用いて塩分による腐食を防ぐなどの技術が使われている。

東京湾の沖合いに巨大構造物を築く夢は古くからあった。中でも技術者魂を揺さぶるのは、東京湾への外敵の侵入を防ぐ軍事施設・第三海堡の建設だろう。アクアラインより約20km南方の浦賀水道につくられた人工島である。これは、1892年から1921年までの約30年かけて、水深39mの地点に築かれた世界的に見ても画期的な巨大海中コンクリート構造物で、建設途中にも求めに応じて、アメリカに情報提供していたことが知られている。しかし、この明治の知られざる巨大土木プロジェクトは、完成2年後の関東大震災で砲台が大きく損傷したあと、そのまま歴史の彼方に忘れ去られてしまった。

東京湾アクアラインの2つの人工島、川崎人工島と木更津人工島の水深は28mと25m。巨大なフローティングクレーンで、円筒形の地中連続壁や多数の鋼製矢板セルを設け、水の侵入を防ぎながら建設された。

わが国で唯一の海中人工島のパーキングエリア「海ほたる」は、今も多くの利用客でにぎわっている。ただ、その航空母艦のような佇まいを見ると、いかにも平成らしい名前とデザインとは裏腹に、まるで明治の技術者の夢のつづきを見ているかのようである。(北河)

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種別 道路橋・道路トンネル
所在地 神奈川県川崎市・千葉県木更津市
構造形式 鋼製 桁橋 鉄筋コンクリート造 トンネル
規模 延長15.1km 橋長4384m トンネル延長9610m
竣工年 1997年
管理者 東京湾横断道路株式会社
設計者 日本道路公団
備考 土木学会田中賞

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