四国インフラ043 柿原水源地水道施設群

最新鋭だった<血管>


「ザァァー」。野鳥のさえずりがこだまする須賀川支流正シ川沿いの山道を歩いていると、どこからか水の流れる音が聞こえてくる。滝でもあるのだろうか。音のする方向に進んでみると木々の隙間から時を重ねたコンクリートの躯体がこつ然と姿をあらわす。濾過池、洗堰、第一貯水池ダム、第二貯水池ダムからなる柿原水源地水道施設群である。

大正9(1920)年の夏、コレラの大流行に見舞われた宇和島市は、翌年、水道敷設を積極的に進めた。大正15(1926)年には濾過池と洗堰が竣工し、愛媛県下で最初の近代的水道施設が完成した。愛媛最大の都市である松山に先んじて水道施設が完成したことはもちろん話題となったが、なかでも濾過池は当時最新のJL式急速濾過池が採用され、地方の小都市で同方式の濾過池が建設されたことは、全国的に大きな関心を集めた。

さらに昭和5(1930)年には水量を安定させることを目的として石張りの第一貯水池ダム、同26(1951)年にはバットレスをもつ第二貯水池ダムが建設され、ここに一連の水道施設群が完成した。

現在は同施設群の下流に須賀川ダムが建設され、水道施設としての役割は終えているものの、わずかに円弧を描く厚みのある石造りの堰からは水が滔々と流れ、まるで神殿かのような気品が漂う急速濾過池はかつて宇和島市街地に水を送り届けた<血管>としてのはたらきをいまに伝えている。(白柳)

※現在、保安上の問題により旧急速濾過施設場内の立ち入りは禁止されています。

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参考文献

日本水道協会:日本水道史 各論編Ⅲ 中国・四国・九州、1967.

山村豊次郎氏伝記刊行会:山村豊次郎伝,1950.

愛媛県教育委員会:愛媛県の近代化遺産 近代化えひめ歴史遺産総合調査報告書,2013.

種別 上水道施設
所在地 愛媛県宇和島市柿原
構造形式 急速濾過池:RC造JL式急速濾過池、洗堰:石張りRC造、第一貯水ダム:重力式粗石コンクリートダム、第二貯水ダム:バットレスダム
竣工 急速濾過池・洗堰:大正15(1926)年、第一貯水ダム:昭和5(1930)年第二貯水ダム:昭和26(1951)年
管理者 愛媛県南予地方局須賀川ダム事務所 宇和島市水道局
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