東京インフラ035 浅草駅

東京初のターミナルデパート、浅草のハレの場


「花川戸の岸に松屋呉服店の建物屹立せり、橋際に地下鉄道の降口あり、市街の光景全く一変したり」(永井荷風)

浅草の光景を一変させた東京初のターミナルデパート。都心を貫く地下鉄(現、銀座線)と郊外に延びる東武鉄道の結節点につくられた。東武が建設したターミナルビルに百貨店の松屋が入り、駅を行き交う大量の人の流れをデパートに引き込む。つまり、ここは巨大化する東京の<血管>の中継点で、商業施設を入れることで、<血行促進>が図られていたわけである。

鉄道とデパートを一体化する手法は、阪急の小林一三が、世界に先駆けて確立したものだった。浅草駅は、そのモデルを東京で採用した第一号である。ただ、2階に直接列車が入り込み駅舎と商業施設が完全に一体化した構造をもちながらも、デパートは鉄道会社直営ではなく別経営にする、という珍しいスタイルのターミナルビルだった。デパート屋上に設置された遊園地も、わが国初の試みという独自性をもっていた。

「浅草は、上野とともに、東京の北の玄関である。上野駅からも近いし、東武線は浅草まで直接北関東の人をはこぶ。おそらく、こんな北の人びとには、通俗的な庶民の町浅草は、溶けこみやすくもあり、親近感も持てるのだろう。生活感情に大きい落差がないのである。・・・浅草の流行は、銀座のようにけっして東京の流行を指導しない。むしろ、東京にみられる一時代まえの田舎の町の感じがする。」(松本清張、樋口清之)

この駅は、都心で働く通勤客を中継するだけでなく、地方から浅草に来る観光客にとっての玄関口でもあった。「銀座のようにけっして東京の流行を指導しない」浅草の伝統的なハレの空間を味わいつつ、銀座にあるのと同じ松屋で都会の昂揚感を味わう。東京らしい異質空間の混在が、ここにはある。(北河)
 

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引用
荷風全集第21巻、岩波書店、1963.
松本清張、樋口清之:東京の旅、光文社文庫、1985.

種別
所在地東京都台東区
構造形式鉄筋コンクリート造 地上7階地下1階建
規模面積34611㎡
竣工年1931年
管理者東武鉄道株式会社
設計者久野設計事務所

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