東京インフラ061 国分寺崖線

古代人の嗅覚を感じる場所


武蔵野台地は、厚い火山灰の層・関東ローム層で覆われ、地下水脈が深い。そのため、かつては水を求めて大きく深い井戸が掘られた。これは「掘兼(ほりかね)の井」と呼ばれ、

「武蔵野の 掘兼の井も ある物を うれしく水の 近づきにける」(藤原俊成)

の句に見るように、和歌にも歌われる武蔵の風物として知られてきた。

しかし武蔵野台地でも、多摩川との境をなす崖部分は別であった。川が台地の斜面を洗い出し、表面に現れた透水性の高い砂礫層から、水が豊富に湧き出たからである。

この乾いた台地で、湧水は貴重かつ神聖なる存在であった。そのため、崖線の代表格である国分寺崖線の周りには、古くから政治・宗教・生活空間が形成された。荏原台古墳群、武蔵国分寺跡、古代道路など、今なおその痕跡が数多く残る。

その中でも、東京区内で唯一の渓谷・等々力渓谷は、湧水のもつ宗教的性格を今なおよく留めている。ここでは、切り立つ岩の間から今も湧水が染み出している。

「斜面の途中に、不動に上る石段があり、その傍に崖から湧き水の落ちる小さな滝がある。その滝の轟く水音がトドロキという地名になった・・・。何かの霊験があるとみえて、冬の早朝など、崖っぷちにローソクの火を点して、行者が裸で滝に打たれている姿を見掛けることがある。」(安岡章太郎)

政治や宗教の表舞台だった頃の崖線の面影はすでにないが、ここに立つと、今でも古代人の土地に対する嗅覚を感じ取ることができる。(北河)
 

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引用
新日本古典文学大系10千載和歌集、岩波書店、1993.
安岡章太郎:僕の東京地図、世界文化社、2006.

種別崖線
所在地東京都大田区・世田谷区・狛江市・調布市・国立市・府中市・国分寺市・小金井市・武蔵村山市
規模延長約40km 高低差約20m

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